【第11回】報道しない自由−事務所費問題

【第11回】報道しない自由−事務所費問題
今回より、前回の衆議院議員選挙以降、いえ更に正確に云うと、小泉純一郎首相退任以降の政治問題とマスコミの報道の仕方について、具体例をあげてみていきましょう。
安倍晋三内閣成立以降、まず槍玉に挙がった問題を覚えておいででしょうか? 
今から振り返ると「年金問題?」という答えが返ってきそうですが、更にその前に連日マスコミが大きく取り上げたのは所謂「事務書費問題」でした。
簡単にこの問題をおさらいしておきましょう。wikiから一部引用しつつ、解説します。


政治資金規正法において、政治団体には政治資金収支報告書の提出が義務付けられており、政治団体の会計責任者は、年間のすべての支出を、法に定められた基準に沿って分類し、政治資金収支報告書に記載する必要があります。
政治団体の支出は「政治活動費」と「経常経費」に大別され、事務所費は、人件費、光熱水費、備品・消耗品費とともに「経常経費」に含まれます。
「政治活動費」が当初から1件5万円以上の支出については詳細な領収書等の写しを添付することが義務付けられていたのに対し、「経常経費」は項目毎の総額を記載するのみで足り、領収書等の写しの添付も不要とされていたことから問題が発生しました(但し、現在は政治活動費と同じ扱いに改正済み)。


有り体に云えば「領収書が出せない経費」もしくは「政治資金の個人流用」を、事務書費の項目に付け替えていたわけです。
その代表例が
「使用もしていないのに発生する事務所費(親族などの自宅を事務所として登録し、賃貸料を支払った形にする)」
「やたら高額な光熱費(「なんとか還元水」云々の言い訳)」
と聞けば、当時のことが少しは思い出されるでしょう。
この事務所費問題は、発足したばかりの安倍政権を直撃。
まず佐田玄一郎行政改革担当相が10年で約7800万円の架空事務所費を計上して辞任、巨額の事務所費のみならず光熱費だけで5年2800万を計上していた松岡利勝農水相は最期には自殺を、更に松岡大臣の後任である赤城徳彦農水相も十年間で9000万円の架空事務所費を計上していたと云うことで辞任に追い込まれました。
連日マスコミはこの問題を追及。
この問題に加えて、所謂「消えた年金問題」がクローズアップされ、参議院議員選挙で大敗した安倍自民党は退陣し、替わって福田内閣成立となります。

ところが、所謂「消えた年金問題」は未だに政治上の争点とされるのに対して、この事務所費問題に関する報道はある境を経て、パタリとやみます。
与野党問わず、徹底的に不正追及を叫ぶ共産党の機関誌「赤旗」でも、今日同サイトで「事務所費問題」で検索をかけると、2007年10月以降の記事が激減します。
では、2007年10月に何があったのでしょうか? 
2007年10月3日の新聞記事から引用してみましょう。

民主党最高顧問の渡部恒三衆議院議員政治団体が、2004年までの12年間、実際には事務所として使われていなかった都内のマンションを「主たる事務所」として総務省に届け出ていたことが明らかになりました。
「反省しなければならない。10年前は当たり前だった。10年前はなんでもないと思っていたことが、今は厳しく批判されなきゃいけない」(民主党渡部恒三最高顧問)
政治資金収支報告書によりますと、渡部氏の政治団体「新時代の会」は、2004年までの12年間、当時、渡部氏の秘書で、現在は福島県知事の佐藤雄平氏の自宅マンションを「主たる事務所」として総務省に届け出ていました。
しかし、関係者によりますと佐藤氏のマンションは実際には事務所として使われておらず、実体は議員会館にあったということですが、その間、事務所費などとしておよそ1億7800万円の経常経費を支出していたということです。
渡部氏は 「事務的な手違い」と事実関係を認めた上で、「小沢代表から辞めろと言われたら議員辞職する」と述べましたが、「選挙民への責任がある」として、すぐ発言を取り消しました。』


民主党最高顧問である渡部恒三衆議院議員(旧自民党竹下派出身)に云わせるとこういう事のようです。
『10年前は当たり前だった。10年前はなんでもないと思っていたことが、今は厳しく批判されなきゃいけない』
……さて。
議員を一人自殺に追い込むことまでしておいて、いざ自分が追求されると(しかも今まで追求してきた自民党政治家より巨額)
『10年前は当たり前だった』
そう開き直れる図太さが、きっと大物政治家には必要なのでしょう。
この後、渡部恒三氏は議員辞職などしていません。
それどころか、現在もなお“報道番組”においては“政界のご意見番”として“政界の良識人”として、賞賛されています。


勿論、国民の税金も投入されている政治資金の支出に対して不正は認められません。
与野党を問わず激しく追求されて然るべきです(ただ自殺にまで追い込む報道姿勢は如何なものかと思いますが)。
しかし、自民党議員についてはあれだけ連日執拗に報道してきたにもかかわらず、それ以上の金額を不正に処理してきた民主党最高顧問に対する追求はこの日の新聞限り。
以降、渡部氏が自発的に「謹慎」したため、事務所費問題はマスコミも、そして自民党民主党を問わず、取り上げる回数が激減しました(ちなみに赤旗のサイト上には渡部氏の事務所費問題は取り上げられていません)。
これは恐らく、マスコミがただ報道しなくなっただけではなく、自民・民主共に「これ以上、暴露合戦やっても互いに傷が深くなるだけ」という自制が働いたためでしょう。
国民を馬鹿にした話ではありますが、いずれにせよマスコミが「報道しない自由」を存分に発揮したことだけは疑いのない事例ではないかと思います。
(続く)


追記.
個人的には松岡議員が好きなタイプの政治家ではありませんでした(農林行政に関してのスペシャリストであることは認めていましたが、討論番組などでの態度から)。
しかし、この一点だけは本当にお気の毒だと思ったのは、松岡大臣の密葬の日。
安倍首相が熊本で執り行われる松岡氏の密葬に出たいと要請したのに対し、民主党側は「党首討論が先約だ」と蹴って、当時の小沢代表との党首討論を強行させました。
勿論これまで小沢代表が党首討論に熱心であったのならまだ話が分かるのですが、それまで小沢氏は地方周りなどを理由に党首討論を拒否していたのです。
これは完全な嫌がらせです。しかも人の死を最大限に醜悪に利用しての。
少なくともこの一点においてだけでも、小沢一郎という人物を個人的に信用できないと感じざるを得ませんでした。