【第20回】子供手当と扶養控除廃止(2)

【第20回】子供手当と扶養控除廃止(2)
前回分は【子供手当と扶養控除廃止】の問題について理解するため、まず所得税の課税の仕組みを解説しました。
で、今回分からが本題。
民主党マニュフェストによって影響を受けると思われる《控除》の制度である
《扶養控除》 《配偶者控除》 《配偶者特別控除
について順に見ていきましょう。


まず《扶養控除》とは、【年間の合計所得金額が38万円以下】で【納税者と生計を一にしている扶養親族】がいる場合に認められる控除を云います。
この扶養親族には、大きく分けて4種類あります
・一般扶養親族:【控除額:38万円】
・特定扶養親族:扶養親族のうち、16歳以上23歳未満の人【控除額:63万円】
・老人扶養親族:扶養親族のうち、70歳以上の人【控除額:48万円】
・同居老親等 :老人扶養親族のうち、納税者・配偶者の直系尊属で同居している人【控除額:58万円】
特定扶養親族だけ【控除額:63万円】とやたら高いですが、これは子供が高校・大学に通っていることを前提に、家計の負担を軽減するためですね。


次に《配偶者控除》とは【年間の合計所得金額が38万円以下】で【納税者と生計を一にしている民法上の配偶者】がいる場合に認められる控除を云います。
この《配偶者控除》で認められる【控除額=38万円】となります。


これだけ説明すると、次のような疑問が湧く方がいるでしょう。
『あれ? 確か妻のパート収入103万円の壁が云々と聞いたことがあるけど?』
これを理解するためには、まず前提として以下のことを知る必要があります。
配偶者控除の適用がなく、納税者本人の合計所得金額が1000万円以下で、年間合計所得が38万円超76万円未満の配偶者の方は《配偶者控除》とは別の《配偶者特別控除》という枠で控除対象となっています。
何故【103万円】という数字が出てきたかと云えば、これは昨日説明した《基礎控除額》の【38万円】と《給与所得控除額》の【65万円】を合算した数字なのです。
この【103万円の壁】と同様、似た問題である【141万円の壁】というのは本題から外れますので省略しますが、現行の民主案が徹底されるとこの【壁】もなくなることになりますので、また機会を改めて解説します。
とりあえず、以下の試算をある程度簡略化するために、
収入が103万円以下の配偶者の方の《配偶者特別控除》も【控除額=38万円】で計算させて頂きます。


さて、随分と前振りが長くなりましたが、以下民主党マニュフェストに基づき、各世帯の試算を見ていきたいと思います。
本当は住民税の控除についても説明しないといけないのですが、長くなりすぎるので下のモデル世帯の計算式を参考にしてみて下さい。
なお《社会保険料控除》に当たる健康保険、厚生年金については《標準報酬月額》というややこしい制度があるのですが、ここでは簡略化するためにそれぞれの保険料率を、平均の【8.2%】、【15.35%】で計算し(実際は勤務している【企業が半額負担】しているので、自己負担は半額)、一万円以下の端数を省略させて頂きます。


【モデルケース1】
【年収:400万円】
【家族構成:妻(専業主婦)子供2人(中学生・小学生】
【生命保険料控除:最大額5万円と想定】
社会保険料控除:47万円と想定】
〔両案共通〕
《給与所得控除額》=400万円×20%+54万円=134万円
《給与所得》=400万円−134万円=266万円


【現行税額】
所得税算出〕
《総所得》=266万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−47万円《社会保険料控除》
−38万円《配偶者控除》−38万円×2《扶養控除》
=62万円
所得税
 62万円×5%=3万1千円
〔住民税算出〕
《総所得》=266万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−47万円《社会保険料控除》
−33万円《配偶者控除》−33万円×2《扶養控除》
=83万円5千円
《住民税》
 83万円5千円×10%=8万3500円
【負担額合計】
 3万1千円+8万3500円=11万4500円


民主党案】
所得税算出〕
《総所得》=266万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−47万円《社会保険料控除》
=176万円
所得税
 176万円×5%=8万8千円
〔住民税算出〕
《総所得》=266万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−47万円《社会保険料控除》
=182万円5千円
《住民税》
 182万円5千円×10%=18万2千5百円
子供手当
 31万2千円×2=61万4千円
【負担額合計】
 8万8千円+18万2500円−61万4千円=−34万3500円


〔現行税額〕−〔民主党案〕=−45万8千円
以上、結果は物凄い金額の実質減税です。子供を持つ夫婦は諸手をあげて万歳でしょう。
しかしこの子供達が二人とも高校生以上になった場合を試算してみましょう。
年収は少し上がって500万円という想定で試算してみます。


【モデルケース2】
【年収:500万円】
【家族構成:妻(専業主婦)子供2人(大学生・高校生】
【生命保険料控除:最大額5万円と想定】
社会保険料控除:58万円と想定】
〔両案共通〕
《給与所得控除額》=500万円×20%+54万円=154万円
《給与所得》=500万円−154万円=346万円


【現行税額】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−38万円《配偶者控除》−63万円×2《特別扶養控除》
=81万円
所得税
 81万円×5%=4万5百円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−33万円《配偶者控除》−45万円×2《特別扶養控除》
=128万円5千円
《住民税》
 128万円5千円×10%=12万8500円
【負担額合計】
 4万5百円+12万8500円=16万9千円


民主党案】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
=245万円
所得税
 (245万円−9万7500円)×10%=23万5250円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
=251万5千円
《住民税》
 251万円5千円×10%=25万1500円
子供手当
 0円
【負担額合計】
 23万5250円+25万1500円=48万6750円


〔現行税額〕−〔民主党案〕=+31万7750円
ということで、天国と地獄。
45万円減税だった筈が、32万円近くの増税となります。
民主党の岡田幹事長は「高校の授業料が実質無償化される」と主張しますが、
マニュフェストに謳ってある金額は年額12万円です。
これでも現行より遙かに足が出ます。
そもそも。
現在高校生、大学生の子供を持つ親は子供手当の恩恵を受けられないわけで。
大学の授業料が最も高いにもかかわらず、突然の大増税です。
にもかかわらず、岡田幹事長は不思議な発言をしています。

民主党の岡田幹事長は会見で、与党の負担増批判に「中学卒業までの子どもがいる全世帯(約1100万世帯)で手取り収入が増える。
単身世帯、子どものいない共働き世帯には、配偶者控除や扶養控除などの話は関係がない」と反論した。
配布した資料では、給与収入500万円の世帯で増収額は子ども1人で年間13.4
万円、2人で同42.7万円。
子供がいない65歳未満の専業主婦世帯のうち納税世帯では税額が若干増えるとしたが、その割合は全世帯の4%未満と明記。給与収入500万円の世帯の減収額は同3.8万円と試算した。 』


自分の試算した中学生以下の子供二人世帯手取り収入増の金額と岡田幹事長のそれが、ほぼ一致しますので、自分の計算式は間違っていない筈ですが。
増税となる世帯の計算が全くもって一致していません。
自分、何か計算式違いしているでしょうか?
ですが、自分が計算式間違いしていたら、何故岡田幹事長があげたモデル世代の「増収額」と自分の計算額がほぼ似た数字になるのでしょうか?
本当に不思議です。
まるで増税となる世帯については「意図的に」計算違いしている気さえします。


そもそも上の試算で見たように、増税となる世帯が4%に留まる筈がないのです。
中学生以下の子供がいる世帯、独身世帯、フルタイムの共働き夫婦の世帯、65歳以上の世帯を合わせて96%に行くでしょうか? 行く筈がありません。
もう一度機会を設けて試算をし直してみますが、子供がおらず、奥さんがパートタイマーとして働いている世帯の税金は間違いなく上がります。
その世帯は本当に全世帯の僅か4%なのでしょうか? 
そして増税となる金額は本当に岡田幹事長の云う3万8千円なのでしょうか?
(これについては改めて試算してみます。特別扶養控除は撤廃しない、という場合の試算も必要ですから)
それにしても。
本当に恐ろしいのは、マスゴミがこの岡田幹事長の発言を鵜呑みにし、岡田幹事長の兄弟が幹部として勤務している中日新聞に至っては、一面トップで「増税となる世帯は4%のみ」と高らかに謳ったことでしょうか?
彼らは一人でさえ、ちゃんと試算をしてみたのでしょうか?
他人の税金である必要はありません。自分や自分の同僚の給与からの試算でいいのです。
それすら、やったとは思えないのですが。
ちなみに。自分は人生で初めて自分の給料から諸々算出してみました。
ああ、控除が貰えない自分はこんなに税金取られていたんだ、と初めて実感(苦笑)。
皆さんも一度是非計算してみましょう。
(続く)