【第22回】子供手当と扶養控除廃止(4)

【第22回】子供手当と扶養控除廃止(4)
今回は片っ端からサンプル世帯を取り上げて試算していきます。
ちなみにこれまでの試算結果を示すと


【モデルケース1】年収400万円想定
・家族構成:妻(専業主婦)・子供二人(中学生・小学生)
→現在より【45万8千円】の【減税】
【モデルケース2】年収500万円想定+特定扶養控除廃止前提
・家族構成:妻(専業主婦)・子供二人(大学生・高校生)
→現在より【31万7750円】の【増税
【モデルケース3】年収400万円・家族構成:妻(専業主婦)のみ
→現在より【6万1千円】の【増税
【モデルケース4】年収500万円・家族構成:妻(専業主婦)のみ
→現在より【7万1千円】の【増税
以上になります。
では、まず最悪の場合とも云える【モデルケース2】で、特定扶養控除(16歳以上23歳未満の扶養親族がいる場合の控除)が存続する場合にシミュレーションです。


【モデルケース5】特別扶養控除が廃止されない場合
【年収:500万円】
【家族構成:妻(専業主婦)子供2人(大学生・高校生)】
【生命保険料控除:最大額5万円と想定】
社会保険料控除:58万円と想定】
〔両案共通〕
《給与所得控除額》=500万円×20%+54万円=154万円
《給与所得》=500万円−154万円=346万円


【現行税額】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−38万円《配偶者控除》−63万円×2《特別扶養控除》
=81万円
所得税
 81万円×5%=4万5百円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−33万円《配偶者控除》−45万円×2《特別扶養控除》
=128万円5千円
《住民税》
 128万円5千円×10%=12万8500円
【負担額合計】
 4万5百円+12万8500円=16万9千円


民主党案】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−63万円×2《特別扶養控除》
=119万円
所得税
 119万円×5%=5万9500円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−45万円×2《特別扶養控除》
=161万5千円
《住民税》
 161万円5千円×10%=16万1500円
子供手当
 0円
【負担額合計】
 5万9500円+16万1500円=22万1千円


〔現行税額〕−〔民主党案〕=+5万円2千円
特別扶養控除がない場合【31万7750円】増税だった金額が【5万2千円】の増税まで削減されます。
これなら確かに二人のうち1人でも高校生なら12万円分の授業料無償化で数値が逆転することになります。
しかし二人とも大学生以上になれば、その恩恵も消えます。
では、子供が大学生一人の場合で実際に計算してみましょう。


【モデルケース6】特別扶養控除が廃止されない場合
【年収:500万円】
【家族構成:妻(専業主婦)子供1人(大学生)】
【生命保険料控除:最大額5万円と想定】
社会保険料控除:58万円と想定】
〔両案共通〕
《給与所得控除額》=500万円×20%+54万円=154万円
《給与所得》=500万円−154万円=346万円


【現行税額】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−38万円《配偶者控除》−63万円《特別扶養控除》
=144万円
所得税
 144万円×5%=7万2千円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−33万円《配偶者控除》−45万円《特別扶養控除》
=173万円5千円
《住民税》
 173万円5千円×10%=17万3500円
【負担額合計】
 7万2千円+17万3500円=24万5500円


民主党案】
所得税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−63万円《特別扶養控除》
=182万円
所得税
 182万円×5%=9万1000円
〔住民税算出〕
《総所得》=346万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−58万円《社会保険料控除》
−45万円《特別扶養控除》
=206万5千円
《住民税》
 206万円5千円×10%=20万6500円
子供手当
 0円
【負担額合計】
 9万1千円+20万6500円=29万7500円


〔現行税額〕−〔民主党案〕=+5万2千円
意外なことに年間所得500万だとまだ所得税率の変更区分の境目を超えないため、特定扶養控除対象者が一人であっても、二人であっても増税額は【5万2千円】で同じです。
但しもう少し年間所得が上がると、税率の区分変更となり、金額に違いが出て来る筈です。
いずれにせよ、特定扶養控除が残ったとしても、配偶者控除を撤廃している以上、やっぱり現在より増税となります。
一番金のかかる大学生にこの仕打ちということは、つまり『大学生は授業なんて出ないで良いから、バイトしろ』ということなのでしょう。
今まで教育に注ぎ込んできた予算はそのためでしたか。
なんという素晴らしい本末転倒! 


以上【モデルケース1〜6】までで見てきたように。
夫婦共にフルタイムで働いている世帯、65歳以上の方の世帯、独身者世帯以外。
どう計算しても中学生以下の子供がいる世帯(高校授業料無償化を含めれば高校生のいる世帯も含みますが)以外は【増税】、しかも【最低5万円程度から】という結論になるのですが。
岡田幹事長、お願いですから、ネットに民主党の試算値を出して頂けないものでしょうか?
『全世帯の4%しか増税にならない』
その民主党の試算が正しいのなら、全く問題ない筈です。
自分のような素人のいい加減な試算など、完膚無きまでに打ち砕かれてしまう筈です。
皆さんも是非、開かれた政党である民主党に試算結果の公開を求めましょう。


引き続き、モデルケースをもう一つ上げておきます。
次は年収1000万円、子供五人という某大阪府知事みたいな方の場合の試算です。
【モデルケース7】
【年収:1000万円】
【家族構成:妻(専業主婦)子供5人(中学生以下】
【生命保険料控除:最大額5万円と想定】
社会保険料控除:117万円と想定】
〔両案共通〕
《給与所得控除額》=1000万円×10%+120万円=220万円
《給与所得》=1000万円−220万円=780万円


【現行税額】
所得税算出〕
《総所得》=780万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−117万円《社会保険料控除》
−38万円《配偶者控除》−38万円×5《扶養控除》
=392万円
所得税
 (392万円−42万7500円)×20%=69万8500円
〔住民税算出〕
《総所得》=780万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−117万円《社会保険料控除》
−33万円《配偶者控除》−33万円×5《扶養控除》
=428万円5千円
《住民税》
 428万円5千円×10%=42万8500円
【負担額合計】
 69万8500円+42万8500円=112万7000円

民主党案】
所得税算出〕
《総所得》=780万円《給与所得》−38万円《基礎控除額》
−5万円《生命保険料控除》−117万円《社会保険料控除》
=620万円
所得税
 (620万円−42万7500円)×20%=115万4500円
〔住民税算出〕
《総所得》=780万円《給与所得》−33万円《基礎控除額》
−3万5千円《生命保険料控除》−117万円《社会保険料控除》
=626万円5千円
《住民税》
 626万円5千円×10%=62万6500円
子供手当
 31万2千円×5=156万円
【負担額合計】
 115万4500円+62万6500円−156万円=22万1000円


民主党案〕−〔現行税額〕=−90万6千円
子供が二人の時が【45万8千円】の減税だったのに対し、五人なのに【90万6千円】の減税に留まるのですから、これはやはり所得税累進課税がそれなりに効いているということなのでしょう。
逆に云うと、所得が低いほど、配偶者控除・扶養控除制度が廃止されても《子供手当》の額面により近く可処分所得が増えることになります。
これは累進課税制度をとっているから当たり前の現象なのですが、それでも「高額所得者には子供手当は不要だろう」という意見も出ているようです。


ですが、現実にはこれは殆ど無理です。
春先の定額給付金の時に所得制限が掛けられなかったのと同じ理由で。
何故かというと、会社員・公務員などの所得はかなり正確に、リアルタイムに近い状態で把握できますが、自営業者の方たちの所得把握が困難だからです。
「それでは国民納税者番号制度の導入を」という流れになるのですが、これは随分昔から野党の反対で潰されてきています。
「プライバシーの侵害だ」「情報漏洩の恐れがある」などの理由で。
会社員や公務員は最初から完全に把握されているわけですが、寡聞にしてそれを「プライバシー権の侵害だ」と裁判に訴えたり「情報漏洩で給料明細が漏れた!」などという騒ぎを殆ど聞きません。
「国が国民の情報を一括管理するのが危険だ」という理屈は確かにもっともなのですが。
「行政の無駄を省く」かつ「行政サービスの向上」を図るのなら、マスゴミ命名による悪意ある名称「国民総背番号制」を導入するのが実は一番手っ取り早いのです。
行政情報並びに健康保険情報を全部この番号に紐付けすれば、飛躍的に我々の暮らしも便利になりますし、行政コストも相当削減できます。
ただ、実際に導入は世論の反対で無理でしょう。


けれど、本当に「無駄遣いの削減」を目指すのなら、ここまで踏み込んで検討し、その末に「国民感情的に導入は無理でした。その代わり、この部分に関しては削れない行政コストとして認める」などという結論を出して貰えれば構わないのです。
その努力もせず「なんでもかんでも無駄。廃止廃止」と云っている人たちに対しては、胡散臭さしか感じないわけで。
……ひょっとして、彼らはこの辺りの問題を認識さえしていない可能性がありますけれど。
以上、4回に渡ってお送りしてきた「子供手当と扶養控除廃止」についてのテーマは今回までということで。
なお「こんなモデルケースの場合は?」という質問がありましたら、ご一報下さい。
(続く)